2022年の9月末に【Ryzen 7000】シリーズが発売され、10月の中旬には【Raptor Lake】シリーズが発売されました。
それ以降、各CPUのベンチマーク結果が、続々とIT&PC系メディアから公開されています。
いくつかのレビューを見ていると、ゲーム性能についてはIntel側が有利なケースが多いみたいですね。
そこで今回は、「Ryzen CPUでもゲーム性能をもっと伸ばしたい!」という方向けに、EXPOメモリ・SMT・CCDの3項目とベンチマーク結果の変化についてご紹介します!
【Zen 4】EXPOメモリ・SMT無効・片側CCDでRyzenのゲーム性能は向上する?
EXPOメモリと手動OCについて
EXPOメモリとは
AMD EXPOとは[Extended Profiles for Overclocking]の略で、この機能を使うとDDR5メモリをRyzen CPUに適した値でオーバークロックすることができます。使い方は簡単で、EXPO認証のあるメモリを取り付けたら、BIOS(UEFI)からそのプロファイルを読み込むだけでOKです。
AMDの公式アナウンスによると、このEXPO機能を活用することで、ゲームでのパフォーマンスが約11%向上する場合もあるとのこと。DRAMレイテンシの影響を受けやすいゲームにおいては、メモリのオーバークロックはパフォーマンス向上に有効なようです。
自力でメモリのオーバークロックを行う場合、メモリの[周波数]と[タイミング]そして[適した電圧]を設定する必要があり、その調整には手間がかかります。
これが1クリックで済むのは大変ありがたいですね!
Ryzen 7000 向けメモリの選び方
Ryzen CPUには、最大限の性能が引き出せるメモリの最適クロック、いわゆる[Sweet Spot]があります。
DDR5に対応したRyzen 7000シリーズにおいては、その最適クロックは[DDR5-6000]のようです。この数値までは、[UCLK]と[MCLK]が1:1で同期して動かせます。それ以上の数値を指定すると1:2での同期になり、かえってパフォーマンスが低下してしまうようです。
つまり、Ryzen 7000シリーズ向けメモリを選ぶ場合、パフォーマンスを重視するのであれば[DDR5-6000]のメモリを選べばよいということです。
…検索流入が9割以上の当ブログをご覧頂いている皆様は、きっとコアな自作erなことでしょう。そのため、上記内容については「もう知ってるよ」という方も多いかと思います。
出始めで情報の少ないDDR5メモリですが、ここからは役立つか不明でニッチな情報をご紹介します。
DDR5では[Hynix M-die]が強い
DDR4メモリにおいては、「メモリOCするならSamsungのB-die(通称:寒B)が良い」とよく言われていますよね。2022年時点でのDDR5版は、[Hynix M-die]がそれにあたるようです。
下記の参考サイトによると、ICをオーバークロックのしやすい順にランク付けするのであれば、今のところ[Hynix M-die]>[Samsung B-die]>[Micron A-die]になるとのこと。
メモリの[周波数]と[タイミング]までキッチリ詰めたい方は、ぜひご参照ください。
余談ですが、マザーボードメーカーが公開しているメモリのQVLリストには、Chipsetの種類も記載されていました。発売時期によって搭載Chipsetが変わっている可能性もありますが、参考程度にはなりそうです。
EXPO対応はメモリメーカー側の自己認証!
どうやらAMD EXPOは、自己認証プログラムのようです。
[EXPO対応メモリ]として売り出すためには、メモリメーカー側が一定基準のテストを行った上で、その結果を公開する必要があります。「どういったPC構成でメモリをテストしたのか、その際の[タイミング]と[電圧]はどのような設定にしたのか」といった詳細をまとめ、そのレポートを公開すれば、EXPO認証をメモリメーカーが自分でつけられるとのこと。
実際に検索して見つかったレポートが下記のものです。
G.SKILL F5-6000J3636F16GX2-TZ5N [レポート]
つまり、EXPO対応メモリであれば自己認証レポートが公開されているため、設定する[サブタイミング]や[電圧]についての情報が事前に得られるかも知れません。より高クロック&低レイテンシなメモリを探す場合に役立ちそうです。
DDR5メモリの手動OC
DRAM Calculator | Time (スコア) | Custom latency | Random latency | Read Speed | Write Speed |
Normal (基準) | 109.92 (100%) | 3.4 (100%) | 77.2 (100%) | 53.6 (100%) | 51 (100%) |
EXPO | 86.5 (78.7%) | 3.1 (91.2%) | 68.3 (88.5%) | 64.7 (120.7%) | 56 (109.8%) |
手動OC | 73.6 (67.0%) | 3 (88.2%) | 58.6 (75.9%) | 73.1 (136.4%) | 64.8 (127.1%) |
今回、EXPOメモリを利用することでゲーム性能がどれくらい向上するのか確認する前に、まずはメモリ単体での変化を確認ておきます。
使用しているメモリはKingstonの[KF560C36BBEK2-32]です。
メモリ速度の計測ができる【DRAM Calculator for Ryzen】ベンチマークを用いて、[Normal]・[EXPO]・[手動OC]の3パターンで計測を行いました。
なお、SoC電圧は[1.1V]に固定し、[FCLK=2133MHz]・[UCLK=MCLK]に設定しております。
ベンチマーク結果の詳細とメモリタイミングについては、添付画像をご参照ください。
※[Time]・[Custom latency]・[Random latency]は数値が小さいほどよく、[Read Speed]・[Write Speed]は数値が大きいほどよい状態です。
Time(スコア)を見る限りでは、[EXPO]を適応すると[Normal]と比較して約21.3%高速になるようです。また、[手動OC]した場合では[Normal]と比較して約33%高速になり、そこそこの伸び幅が得られました。
メモリを高速化したことで、どのようにゲームでのパフォーマンスが変化するのかは、後ほど「ベンチマーク結果」の項目でご紹介します!
片側CCDとSMTの無効化について
片側CCDを無効化する意味
Ryzen 7950Xには、8コア構成のCCD(Core Complex Die)が2つ搭載されています。
2つのCCDをInfinity Fabricと呼ばれる内部バスで接続することで、16コアCPUとして機能させているようです。この構成では、コアが増やせる分だけマルチスレッド性能が向上するメリットがある一方で、CCDをまたぐアクセスの場合はレイテンシが長くなるというデメリットも存在しています。
Zen 3のデータにはなりますが、CCD跨ぎのレイテンシがどういったものかは、下記の参考記事をご参照ください。
どうやらCCDの片方を無効化すると、ゲームパフォーマンスが10%ほど向上するケースがあるようです。下記の記事内では、最大ブーストクロックの低い(出来の悪い)CCD-2が処理を行わなくなるため、ゲームでのパフォーマンスが向上すると紹介されています。
さらに記事外では、CCD跨ぎによるレイテンシの影響を受けなくなるから、ゲームでのパフォーマンスが向上するといった見解もあります。
いずれにせよ、Ryzen 7950Xでゲームパフォーマンスを向上させるには、CCDを片方無効化することが有効になる場合があるようです。
BIOSにあるCCD1 Core Controlを[Disable]にすると、片側のみのCCD(つまり8コア16スレッド)に切り替わります。
SMTの無効化も効果あり…?
SMT(同時マルチスレッディング)とは、単一のCPUコアで複数のスレッドを同時に実行することができる機能のことを言います。例えば8コア16スレッドのCPUでは、1コアあたり2スレッドが同時に実行されているわけです。
こちらについても無効化することで、ゲームでのパフォーマンスが向上する場合があるとのこと。
無効にする場合は、BIOSにあるSMT Controlを[Disable]に変更すればOKです。
ベンチマーク結果
構成と比較内容
CPU | Ryzen 7950X |
Cooler | MEG CORELIQUID S360 |
M/B | MEG X670E ACE (7D69v125) |
RAM | KF560C36BBEK2-32 |
GPU | RTX 3080 Ti SUPRIM X 12G |
M.2 SSD | Samsung 980 Pro (1TB) Samsung 980 (1TB) |
PSU | LEADEX V Gold PRO (1000W) |
OS | Windows 11 (22000.1042) |
今回検証を行うPC構成は、表のとおりです。
使用するベンチマークは[FF14]・[FF15]・[Geekbench 5]の3種類です。
それを[Normal]・[EXPO]・[手動OC]・[手動OC-SMT無効]・[手動OC-片側CCD]の5パターンでテストを行いました。なお、DDR5メモリとCCD・SMT以外の項目は、すべて同じ設定に統一しております。
FF14ベンチ
FF14 | スコア | 平均fps | 最低fps | ロード時間 |
Normal (基準) | 30988 (100%) | 224.7 (100%) | 80 (100%) | 7.3 (100%) |
EXPO | 32184 (103.9%) | 229.6 (102.2%) | 84 (105.0%) | 7.0 (95.9%) |
手動OC | 33792 (109.0%) | 237.6 (105.7%) | 93 (116.3%) | 6.9 (94.5%) |
手動OC SMT無効 | 33901 (109.4%) | 237.4 (105.7%) | 94 (117.5%) | 7.2 (98.6%) |
手動OC 片側CCD | 34299 (110.7%) | 240.5 (107.0%) | 97 (121.3%) | 7.2 (98.6%) |
ベンチマークの結果を見ると、[EXPO]プロファイルを有効にすることで、[Normal]と比較して約4%スコアが伸びました。
メモリを[手動OC]した場合の伸び幅はさらに大きく、約9%スコアが伸びています。さらに平均・最低fpsがともに約13向上しており、メモリの速度を上げることでゲームパフォーマンスがしっかり向上していることが見て取れます。
[手動OC]のみの場合と[手動OC-SMT無効]にした場合では、大きな差は生じていませんでした。
また、[手動OC-片側CCD]にした場合では、[手動OC]のみの場合と比較してスコアが約1.5%伸びています。[Normal]状態との比較では、最終的に約10.7%のスコア向上です。平均・最低fpsがともに最も高く、CCDを片方無効にする効果は確かにあるようです。
以上の結果を見るに、Ryzen 7950Xでゲームパフォーマンスを向上させたい場合には、EXPOメモリを利用したり、手動でDDR5メモリをオーバークロックしたりすることは効果的なことが分かりました。
また、SMTの無効化や片側CCDのみでの運用についても、ゲームパフォーマンスの向上につながることが分かりました。ただし、それで得られるパフォーマンスと、無効化することによるマルチ性能の低下を比較すると、「積極的に無効化するほどでも無いかな」というのが正直な感想です。
FF15ベンチ
FF15ベンチマークについても、[EXPO]プロファイルの有効化や[手動OC]でパフォーマンスが向上しました。ただし、FF14ほどの伸び幅はないようです。
ベンチマークの結果を見ると、[EXPO]プロファイルを有効にすることで、[Normal]と比較して約1.9%スコアが伸びました。メモリを[手動OC]した場合は、約2.8%スコアが伸びています。
面白いことに[手動OC-SMT無効]にした場合では、[手動OC]のみの場合と比べて約0.9%スコアが下がっています。一方、[手動OC-片側CCD]にした場合では、[手動OC]のみの場合と比較してスコアが約1%伸びています。[Normal]状態との比較では、最終的に約3.8%のスコア向上です。
以上の結果を見るに、FF15ベンチマークにおいては、SMTを無効化する意味はないようです。
Geekbench 5
最後にGeekbench 5の結果です。
[Open CL]設定で[Compute Benchmark]を実行しました。
ベンチマークの結果を見ると、[EXPO]プロファイルを有効にすることで、[Normal]と比較して約2.1%スコアが伸びました。メモリを[手動OC]した場合は、約3.7%スコアが伸びています。
[手動OC-SMT無効]にした場合では、[手動OC]のみの場合と比べて約1.5%スコアが低下しています。また、[手動OC-片側CCD]にした場合も、[手動OC]のみの場合と比較してスコアが約1.9%低下しています。
以上の結果を見るに、Geekbench 5においては、SMTの無効化や、片側CCDのみにする意味はないようです。
最後に
今回は、EXPOメモリ・SMT・CCDの設定を変更した場合の、ゲーム系ベンチマーク結果の変化についてご紹介しました。
結果は、DDR5メモリの[EXPO]有効化や[手動OC]を行うことで、ゲームでのパフォーマンス向上が確認できました。
少しでもパフォーマンスを上げたい方には、[DDR5-6000で低レイテンシ]なメモリがオススメです!
一方で、SMTの無効化や片側CCDのみにした場合のテストでは、その効果がある場合・ない場合で分かれました。効果がある場合の伸び幅的にも、正直そこまで気にするほどではないかと思います。
ただ、SMTやCCDはいつでも設定を変更できるため、こだわりたい方は用途に合わせて切り替えるのも良いかもしれません。
それでは!
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